コンビニのレジに並んでいたときのことだ。
前にいた20代前半くらいの男性のズボンが、かなりずり落ちていた。明らかに腰骨のはるか下で止まっている。なぜ落ちないのか不思議なくらいの位置に、ズボンは踏ん張っていた。
そのとき私は思った。「これは…弛緩の極みでは?」と。「弛緩」は、コンビニに来る前に取り組んだ中学生の国語の問題でキーワードとなっていた言葉だ。
弛緩(しかん)。張っていたものがゆるむこと。たるむこと。類義語には、緩和、ゆるみ、脱力、どれも緊張の対義に位置している。それがどこか人間くさく感じる。
思えば、世の中には「緊張感を持て」という声ばかりが大きくて、「もっと弛緩しろ!」という励ましは聞いたことがない。
だが私たちは、もっと堂々と弛緩していいのではないか。パソコンの前でふっと背を丸める瞬間。誰にも見られていないと思ってほっぺをのばす瞬間。人間は日々、少しずつゆるんで、たまに引き締まる。緊張しないと弛緩できない。メリハリこそが美徳なのだ。
その若い男性は、レジが済んだあとも一向にズボンを直す気配がなかった。あれは、弛緩した結果ではなく、ファッションなのだろう。あの位置にズボンを維持するのに必要なのは、弛緩よりもむしろ緊張だ。オーバーサイズの上着に隠れた尻の上部では、ベルトがギュッと閉められているはずだ。
現代社会は常に「締め付ける」ことに夢中だ。けれど、たまにはベルトを緩めよう。体も心も、少しくらいゆるんでいるほうがいい。ズボンが落ちない程度の弛緩は必要だ。

沢田国語研究所
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・本に関するイベント
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沢田隆志
大阪市出身
開明高校→横浜国立大学経済学部卒
大手自動車メーカーで経理として勤務。
神奈川県で教育委員会に勤務。その後、
須賀川市の梁取塾で主に中学生を指導。
俳句や短歌を中心に文学を楽しむ。
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「第1回みんなで選ぶフォト短歌展」最多得票
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「あぶくま時報」火曜コラム執筆中
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