中学国語の問題の小説文の中で「その計画、成算はあるのか?」と先輩社員が後輩に問うシーンがあった。
「あるような、ないような…」と後輩社員は濁した。読みながら内心「成算って何?」と思った。読み方は(せいさん)だろうけど、意味が分からなかったので調べると、「うまくいく見込み」らしい。
先輩の言葉は「うまくいきそうか?」と同じだ。だが、「成算がある」と言うと、なぜか頭が良さそうに見える。自己ブランディングのためのワードチョイスか。
さて、この“せいさん”という音、他にも実に多くの意味を持つ。
たとえば「精算」。バスを降りるときに言われるやつだ。小銭を落としてしまうのは、寒さではなく、たいてい焦りによる。乗り慣れない路線バスでの精算はちょっとしたスリルだ。
「清算」になると、雰囲気が一変する。金銭的な清算ならまだしも、人間関係の清算となるともう大ごとだ。別れ話に「今までのこと、ちゃんと清算したいの」と言われた日には、こちらはすでに精神的に破産寸前である。
「生産」も侮れない。「生産性が低い」と言われると、人格を全否定されたような気分になる。私はロボットではない! と叫びたくなるが、叫ぶとますます評価は下がる。
こうして並べてみると、「せいさん」という音には、やけに“見積もり感”や“価値判断感”がまとわりついている。しかもそのほとんどが、人間にプレッシャーを与える方向で働く。
ちょっと嫌な響きだ。
計画に成算があるかと問われたら、「ベストを尽くします」と答える。精算機の前では、「次の人、先どうぞ」と譲る。生産性について聞かれたら、「マイペースが一番です」と微笑む。
なるべく「せいさん」という音を避けて暮らしたいものだ。

沢田国語研究所
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沢田隆志
大阪市出身
開明高校→横浜国立大学経済学部卒
大手自動車メーカーで経理として勤務。
神奈川県で教育委員会に勤務。その後、
須賀川市の梁取塾で主に中学生を指導。
俳句や短歌を中心に文学を楽しむ。
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「第1回みんなで選ぶフォト短歌展」最多得票
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「あぶくま時報」火曜コラム執筆中
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