中学生の国語の問題で、「我田引水」と出てきた。「他人のことを考えず、自分に都合がいいように言ったり行動したりすること。自分の利益になるように取りはからうこと。」そんな感じの意味だ。
「自分の田んぼにだけ水を引き入れるエピソードからきている」というようなことを聞いたことがある気がするが、それは遠い昔のエピソードだと思っていた。
先日、須賀川市で農業を生業にしている友人と話す中で、「我田引水する人がいる」という話になった。えっ、と思って詳しく聞いてみると、その友人の田んぼは水源から最も下流にあって、上流の田んぼの所有者たちがまわしてくれないと水が来ないそうだ。意図してなのかどうかわからないが、希望通りにはなかなか水は来ないらしい。
ただ、考えてみれば農業の界隈だけでなく、現代社会では、我田引水ムーブを目にすることは少なくない。たとえばSNS。「応援してます!」のリプに自社商品のリンクを貼る人、「泣いた…」という他人の感動話のコメント欄に「私の体験も読んで」と宣伝を差し込む人。控えめなふりをして、しっかりホースは自分の田んぼに向いている。
だが、我田引水が悪だと一刀両断するのも、それはそれで独善的だ。なぜなら、我々は皆、多少なりとも自分の田んぼに水を引いている。自分をよく見られたいという下心がある。
むしろ、実は一番厄介なのは、自分を「利他的」だと思っている人だ。そういう人が気づかぬうちに一番水を引いている。「私は街のため、みんなのためにやってる!」というアピールほど、水圧は強く、他人を乾かす。
結局のところ、「完全な利他」も「純粋な独善」も、この世には存在しない。みんなちょっとずつズルくて、ちょっとずつ優しい。それを笑って受け入れる余裕が、たぶん一番の社会潤滑油だ。今日も誰かが、目立たぬようにそっとホースを引いている。その気配に気づいたら、「いいね、その水の引き方、スマートやね」と思うようにしよう。

沢田国語研究所
●事業内容
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沢田隆志
大阪市出身
開明高校→横浜国立大学経済学部卒
大手自動車メーカーで経理として勤務。
神奈川県で教育委員会に勤務。その後、
須賀川市の梁取塾で主に中学生を指導。
俳句や短歌を中心に文学を楽しむ。
・須賀川短歌会主催
「第1回みんなで選ぶフォト短歌展」最多得票
・須賀川地域の地方紙
「あぶくま時報」火曜コラム執筆中
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